電源回路はオーディオに限らず全ての電子回路において最も重要なブロックであり、回路を設計するとき一番気を使う部分です。
どんなにいい回路を設計したとしても、電源が粗悪であれば回路の機能を果たすことができなくなります。
このページでは、電源回路の紹介と、電源回路に使われる部品を紹介します。
電気を全く知らない方の入り口の第一歩を目指しますので、新しく登場する部品は、一つ一つ最低限知っておくべき内容を簡単に説明していくつもりです。
既に回路を組んだ経験をお持ちの方は、有用な情報は少ないかもしれませんが、よろしければお付き合いいただければ幸いです。

■電源とは
DC電源(直流電源)は常に一定の電圧を出力し続けるタイプの電源で、一般的にAC電源(家庭用コンセント等)から生成されます。
電源回路はDC電圧源を作り出す回路で、様々な方式の電源回路が存在します。
その中で最も簡単な方式は
コンセント→トランス→整流回路→安定化回路
という構成です。この方式をトランスタイプと言ったりします。
この方式のメリットは低ノイズなこと、デメリットは、損失が大きいこと、トランスを使うので物のサイズが大きく、重たくなることです。

この方式の対になる方式がスイッチング電源です
スイッチング電源はAC-DCモジュールとして製品化されている物を使用することが多く、電源回路を自作することはまずありません。というより自作することをお勧めしません。
電源回路の動作不良は重大な事故に繋がる危険が大きすぎるからです。
自作した電気製品を使っていて、もし火災でも起こしてしまったら笑い話にもなりません。
スイッチング電源は必ずメーカー品で品質保証されている物を使いましょう。
スイッチング電源のメリットは、効率がいいこと、価格が安い・小さい・軽いことで、デメリットはノイズが大きいことです。

身近なもので例えると、ガラケーの充電器のようにコンセントのところが小さくて軽いACアダプタはスイッチングタイプです。
電子ピアノや、モデム等に使われる、コンセントのところがズッシリと重たいACアダプタはトランスタイプです。
電源ノイズが機能に影響を与えやすい機器はトランスタイプが使われることが多いです。
ここでも低ノイズであるトランスタイプを使用します。

■電源回路の構成
トランスタイプの電源は変圧部、整流部、平滑部、安定化回路に分けられます。

-変圧部-
まず変圧部ですが、トランスという部品で変圧します。
電気の入門書などでよく見かける説明では、
「トランスは1次側と2次側のコイルの巻き数比で出力電圧が変換され、その関係は....」
というような書きぶりで数式を出して解説されています。
それでもよいのですが、実際にトランスを部品として使用するときに巻き数比の計算まではしませんし、そんな計算方法覚える必要がありません。
詳しい計算方法はトランスを作るメーカーさんが熟知しておけばよく、実際使う側はトランスはどんな動作をしているかイメージさえできれば何の問題もありません。
トランスのザックリとした動作イメージを掴んでください。

トランスはヨークと呼ばれる閉磁路にエナメル線と呼ばれる銅線を巻いてできています。
銅線は入力用と出力用の2本巻かれており、入力側を1次側と、出力側を2次側と呼びます。
1次側にコンセントの100V電源をつなぐと、1次側のコイルに交流電流が流れます。
この電流が磁気に変換され、ヨーク(磁路)の中を進んでいきます。
進んでいった先に2次側のコイルが待ち受けていて、ここで磁気から2次側電流に変換されます。
そして、この電流の大きさは1次側の電線の巻いた回数と2次側の巻き数の比に応じて決まります。電圧も同じように巻き数比で決まります。
言い換えると、1次側と2次側のコイルの巻き数比を変えてやることで、2次側の電圧を1次側の何倍かに変換することができます。
1次側と2次側の巻き数比が同じであれば、1次側に100V入力したとき2次側にも100Vが出力されます。
2次側の巻き数が1次側の巻き数の半分であれば、出力される2次側電圧も1次側の半分の50Vになります。
その逆はどうなるか、もう分かりますよね。

電圧は巻き数比に比例するのに対して電流は巻き数比に反比例するのですが、「電圧?、電流?、何が違うの?」と混乱させたくないので、ここでは電流は考えなくても結構です。
ただ、トランスを通して電圧が倍になった上、電流も倍になったら電力が増えていることになるので、あり得ないと直感的に感じてください。
電圧が倍になれば電流は半分になり、その逆もまた同じです。
電圧×電流=電力
ここの「電力」の部分はトランスの1次側と2次側で同じになります。

トランスには前述の変圧機能と、もう一つとても重要な機能があります。
それが1次側と2次側のDC的な絶縁です。
「絶縁」とは電気を通さないことです。

先ほど、2次側のコイルに磁気(磁力線)が通ると、電流が生じると説明しましたが、厳密に言うと
2次側のコイルを通る磁力線の「変化」が電流に変換されます。
細かい話は割愛しますが、時間的に常に変化し続けるAC電流は1次側と2次側の双方向に伝わりますが、時間的に変化しないDC電流は1次側から2次側に、2次側から1次側に伝わりません。
この機能を利用することで正負電源を生成したり、複数の2次側を直列に繋いだりすることができます。

以上がトランスの説明になります。
上記で説明したことを下の図にまとめました。
図で動作イメージの再確認をしてみてください。

-整流部-
つぎは整流についてです。
AC電源からDC電源を生成するには、先ず電圧の向きを整える「整流」という処理をします。
整流にはダイオードと呼ばれる素子を使います。
ダイオードを回路記号で表したのが右の図です。
△の先に縦棒が付いています。
ダイオードは、図中の○矢印の向きに電流を流すことはできますが、
その逆向きのX矢印の向きには電流を流さない素子です。
実物のダイオードはパッケージの1端に線が引いてあり、
回路記号の縦棒がその線に対応します。
この先、トランジスタやオペアンプなど様々な半導体と呼ばれる素子が登場しますが、このダイオードが半導体の基礎になるので、基本特性を覚えておくと良いかもしれません。

細かいことは置いておいて、ダイオードで覚えておくことは、
・向きがある ※重要
・2端子の素子で、アノード(線が付いていない方(+))、カソード(線が付いている方(-))がある
・アノードからカソード向き(「順方向」という)には電流を流せるが、
 カソードからアノード向き(「逆方向」という)には電流を流さない、整流作用がある。
・順方向に電流を流したとき約0.6Vの電圧降下が発生する。 ※超重要
 このことをVF、順方向降下電圧または順電圧とよびます。
・周囲温度によってVFが変動する。(温度が高くなるとVFは小さくなる) ※重要
・印加できる最大逆電圧(VR)決まっており、この電圧を超えて逆電圧を印加すると、ブレイクダウン電流が流れて最悪故障する。

上記の特性のなかでも、順方向降下電圧が特に大事な特性です。
順方向に電流を流したときに必ず0.6Vの電圧降下が発生します。
この0.6Vという電圧はPNダイオードである限りだいたい同じになります。
厳密には常に0.6Vというわけではありませんが、今は「ダイオードに順方向に電流を流すと0.6Vの電圧降下が発生する」と覚えていただければ問題ないです。
つまり、0.6V以上の電圧をかけないと電流は流せませんし、1.5Vの乾電池に直接つなぐと、理想では無限大の電流が流れることになります。現実には、無限大の電流は流れませんが、ダイオードと電池がチンチンに熱くなるので絶対にやってはいけません。

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「理想」という言葉が出てきたので、少し余談になりますが、アナログ回路には、理想素子という考え方があります。
それぞれの回路素子には「理想」つまり、本来持つべき性質がおおよそ定まっており、回路理論を学問として学ぶときや回路設計をするとき、まずは回路に使われる部品を理想素子として計算します。
しかし、しっかり計算して設計した回路を組んで動かしてみると、実際は設計値から少し外れた動作になります。
どうしてかというと、理想素子はこの世に存在しないからです。
どんな素子もその構造上、寄生成分と呼ばれる本来の特性に不要な成分がつき、この寄生成分により性能が制約される為です。
アナログ回路が難しいと言われるのは、このような理想と現実があるために、「教科書通りに作ったのに期待する動作にならない」ということがよくあるからです。
さらに、何か問題が発生したとき、その解決方法がどこにも書いていないし、誰も教えてくれないので、自分で原因を予想しながら一つずつ確認していく作業が必要になります。
この作業をデバッグといい、デバッグで問題を解決するのに要する時間は、経験と、勘と、センスに大きく左右されます。
不慣れなときは長くて辛い作業ですが、慣れてくると、電線が抵抗と容量とインダクタの塊に見えてきたり、回路記号に示されていない寄生成分が自ずと見えてくるようになり、少しずつ問題が早く解決できるようになると思います。
この領域に達するには多くの時間と経験が必要になるでしょうし、全てのことを完全に把握することはまず無理です。
ひとまず、理想と現実は違うということだけ頭の片隅に置いて頂ければよいかと思います。
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ではダイオードの動作を見てみましょう
下の図はLTspiceという電子回路シミュレータツールです。
リニアテクノロジーという電子部品メーカーのホームページより無料でダウンロードできます。
半波整流回路
ダイオードと抵抗とAC電圧源だけの簡単な回路を作って動かしてみました。
ツール画面の下側が回路図で、上側がシミュレーション結果の波形です。
回路図のダイオード(D1)に±30Vpp、60Hzの正弦波を入力したときの入出力電圧波形を見てみましょう。ダイオードのアノード側を「Vin」と、カソード側を「Vout」と名づけました。
シミュレーション結果画面の緑色の線がVinの電圧波形で青色の線がVoutの電圧波形です。
Vinが+側(0Vより高い電圧)のとき、Voutの電圧はVinに追従しており、
Vinが-側(0Vより低い電圧)のときVoutはずっと0Vになっているのが分かりますか。
電流は電圧が高い方から低い方に向かって流れる性質がありますが、
この波形から、ダイオードのアノード側がカソード側よりも電圧が高いときは電流が流れていて、アノード側がカソード側の電圧よりも低いときは電流が流れていない事が分かります。
このように、プラスからマイナスに常に変化するAC電圧をプラス側、またはマイナス側のどちらか一方だけになるようにに向きを整える回路を整流回路といいます。

そして上図の回路ように入力波形の1周期のうち半分だけ整流する回路を半波整流回路といいます。
これに対して、入力波形のプラス側、マイナス側の両方で整流する回路を全波整流回路といいます。
全波整流回路は、ダイオード4つで実現できます。
全波整流回路
上の図が全波整流回路とシミュレーション結果です。
全波整流を説明する前に、フローティング電源について説明します。
ちょっとを頭を使うので頑張って付いてきてくださいね。

電子回路には必ず基準になる電圧点が1点あります。
この点を0Vとして「GND(グランド)」と呼びます。
全ての回路はこのGNDを基準に動作していると考えてください。

電源は+端子若しくは-端子のどちらか一方をGNDに接続して使われます。
そして、回路の端子をGNDに接続することを「接地」といいます。
一つ前に説明した半波整流回路図を見てください。
"○"の中に"~"のマークがAC電源のシンボルで、その真下にある"▽"マークがGNDのシンボルです。この回路ではAC電源の-側をGNDに接地していますね。

しかし、フローティング電源はこの接地という処理がされていません。
フローティングを日本語にすると「浮いている」と訳されますが、まさにGNDから浮いている電源です。フローティングにすると、GND若しくは、GND以外の別の電位点を電源の基準点にすることができます。要するに、回路の何処か好きな点を基準点にすることができます。

身近なフローティング電源の例が乾電池です。
電池単体ではどこにも基準点はなく、+端子と-端子の間の電圧の差が1.5Vあるだけです。
これが電池ボックスにセットされ、電池の-端子が回路中のGNDに接続されると、電池の+端子に接続された回路には+1.5Vが印加されます。
もし+端子がGNDに接続されると、-端子に接続された回路に-1.5Vが印加されます。
あたりまえのように思えますが、電源が乾電池からAC電源に取り変わった途端に分からなくなる方が多いようです。
フローティングの考え方は、乾電池でもAC電源でも同じで、とても大切なので覚えておいてください。

全波整流回路は、図でいうとR1の下側が回路のGNDになります。
半波整流回路では接地していたAC電源のV1ですが、全波整流では接地されていませんね。
この状態で動かすと、Vin1の電位がVin2の電位より高いときは、D2→R1→D3のルートで電流が流れます。このとき交流電源の-側がD3を通して接地されています。
Vin2がVin1より高電位のとき、今度はD4→R1→D1のルートで電流が流れます。
このときは電源の+側がD1を通して接地されます。
こうやってGNDのツナギを連続して入れ替えることで、常にVoutがプラスになるように整流することができます。

ここで、ダイオードの向きを全て逆にしてみるとどうなるか予想してみてください。
答えはこうなります。
全波整流回路2
どうでしたか、あってましたか?
なぜわざわざ「予想してみてください」と書いたかというと、下記のような想いがあるからです。

アナログ回路は、おおよその設計作法は決まっているのですが、回路の組み方は無限大です。
ある機能をもつ回路は様々な方法で実現でき、設計者によって全く違う回路になります。
その一つ一つの回路を細かく覚えるのは無理です。
回路技術を習得するとき、よく先人が設計した回路の真似をすることから始めたりしますが、そのとき、回路をそのまま覚えてしまうと、覚えた回路しか組めなくなってしまいます。
それは真似じゃなくてコピーです。
そうではなく、順に回路を追っていき、「なるほど、こうやって動かすのか」といった具合で回路の動作や、部品の使用方法を覚えるのです。
そして、「ここをこうしたらどうなるのかな?」と少しずつアイデアを入れていき、自分の回路にしていくのが上達への近道です。
このページを読んでくださっている方々は、できればそういう思想で読んで頂ければと願っています。

では最後に、半波整流と全波整流の両者共に、VinとVoutの波形を比べるとVoutのほうが少しだけ電圧が低くなっているのはどうしてでしょうか。
さらに全波整流のほうが電圧降下の幅が大きくなっているのはどうしてでしょう。
また、それぞれの電圧降下は何Vくらいか予想してみてください。

波形を拡大して確認しなくても、ましてや特殊な計算をしなくても、ここまで読んで頂いた方にはわかるはずですよ。

つぎの電源part2は「平滑部」と「安定化回路」についてです。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

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